百合の輪の調停者の後日談。
かなり長くなったので簡易版です。
ちなみに本日時点でノンフィクション184万、スタプロ66万。
前回のあらすじ
恋はかのんと千砂都に遊びに誘われた。
🐙「どこか行きたいところはある?」
☕「実は母の人脈から、オペラ公演のチケットが手に入りそうなのです。
新国立劇場ではなく東京芸術劇場なので、池袋まで行くことになりますが、もしよろしければ」
🎧「オペラ! 行きたい!
あ、でもちぃちゃんは……」
☕「あまり興味はありませんか?」
🐙「いやいや、そんな事ないって。喜んで付き合うよ~」
🎧「けどちぃちゃん、小学校の課外授業でさあ。
渋谷フィルの演奏会があったとき、うつらうつらしてたよね」
☕「え、あの高名な渋谷フィルの演奏でですか。何というもったいない……」
🐙「クラシック聞いた小学生なんてそんなもんでしょ!?
まあ、優勝するための勉強として行くよ。
もはや私も、歌が苦手とか言ってられないなって」
☕「それなら良かったです。ただ……
千砂都さんの歌が拙いなどと、私は思ったことはありませんよ」
🎧「だよね!? ちぃちゃんの歌、十分上手いよね!」
☕「はい。ロングトーンも見事ですし」
🐙「ひー、やめて! この二人に言われるといたたまれない!」
その晩、恋の屋敷。
☕「ということで、日曜に行って参ります」
サ「お慶び申し上げたいところですが……少々不安です。
かのん様と千砂都様は幼馴染なのですよね」
☕「はい。幼少のみぎりからの」
サ「幼馴染二人が思い出話に花を咲かせ、恋様が疎外感を覚えるというパターンでは!?」
☕「考えすぎですよ」💦
サ「くっ……私があと十年若ければ、恋様をお一人になどさせませんのに」
☕「だから一人ではありませんてば。
もちろんあの二人の絆には、私など遠く及ばないでしょうけど。
たとえ一番でなくても、仲の良いお友達と思っていただけるなら……
それで十分ではありませんか」
サ「ああ恋様! さすがです天使です!
まあ私の一番は恋様ですけどね!」
☕「ありがとうございます。お土産話を楽しみにしていてくださいね」
当日
3時間後――
☕「素晴らしい公演でした!」
🐙「歌詞はよく分からなかったけど、歌声には圧倒されたよ」
🎧「私があんな風に歌えるまで、何年かかるんだろう……」
☕「さすがの向上心ですね」
🎧「オペラ歌手と比べるのはおこがましいけど。
でも、どうしたらもっと私の歌で感動させられるのか、予選で負けてからずっと考えてるよ」
☕「かのんさん……」
🐙「ま、腹が減っては向上もないってことで。お昼どうする?」
☕「す、すみません。お二人の方が詳しいかと、何も調べずに来てしまいました」
🐙「東武にも西武にも店は一杯あるだろうから、心配はないけどね」
🎧「恋ちゃんが前に来たときはどこ行ったの?」
☕「前回チケットをいただいた際はお金がなかったので、すき家で済ませました」
🎧「そ、そう……」
☕「その前はまだ家族が揃っていたので、東武最上階の今半ですき焼きなどを食しました」
🎧「なんか店の人が焼いてくれるやつだっけ……」
🐙「落差が激しすぎる……」
☕「今は皆さんと同程度の経済力ですので、どうぞお気遣いなく」
🎧「そういや、前に可可ちゃんに聞いたんだけど。
ここから北口にかけては新華僑の人が多くて、チャイナタウンみたいになってるんだって」
🐙「へー、池袋ってそうなんだ」
🎧「日本語が通じない中華料理屋もあるとか」
🐙「なんだか面白そうだね!」
☕「しかし行くなら、やはり可可さんと一緒のときが良いですね」
🐙「あはは、確かに。じゃあ今日は普通の中華屋にしようか」
目に入った中華料理屋に入店。
焼き餃子と水餃子がメニューにあったので、両方を頼む。
🎧「これも可可ちゃんに聞いたけど、向こうは焼き餃子ってあんまり食べないんだってね」
🐙「水か蒸しが主流だって言うよね」
☕「なるほど……かのんさん、可可さんが気になりますか?」
🎧「は!? いや? 別にそういう。
いやー、すみれちゃんと上手くいってくれるといいねえ」
☕「失礼ですが、それは本当に本心から……」
🐙「すいませーん! お水くださーい!」
☕「………。午後はどうしましょうか」
🐙「パルコで服でも見てく? 渋谷にもあるのに何だけど」
🎧「一応こっちが本店だしね」
☕「服といえば……この前の活動時に、すみれさんが仰ってましたね。
今の五人のイメージは浸透したから、今後は新たな一面も見せていくべきだと」
🎧「そう言われてもなあ。何かある?」
☕「私としては、千砂都さんの可愛らしい面はもっと出して良いと思うのです」
🐙「へ!? 私!?」
🎧「はい言った! 恋ちゃんがいいこと言ったよ!」
🐙「いやいやいや、可愛さアピールならかのんちゃんも可可ちゃんもいるし……」
☕「何人いても良いと思いますよ」
🎧「皆がちぃちゃんをカッコいいって言ってくれるのは嬉しいんだけどね。
幼馴染としては、もっと可愛い部分も知ってほしいよ」
🐙「か、かのんちゃんってば」
☕「無理にとは申しませんが」
🎧「嫌とは言わないよねえ、ちぃちゃん?」
🐙「ううう……」
☕「?」
店を出て駅の中を東口へ向かいながら、以前(3話)のことを聞かされる恋。
☕「なるほど、かのんさんに無理やり可愛い服を着せたのですか。それでは拒否はできませんね」(クスクス
🐙「くそう、こうして因果が巡ってくるとは。
ハイハイ分かりましたよ。別に可愛いの苦手ってわけじゃないしね」
🎧「あーあ、覚悟決めちゃった。こうなると恥ずかしがってくれないんだよなあ」
☕「もう、恥ずかしがらせるのが目的ではないのですよ」
🐙「伊達にイメージカラーがピンクじゃないよ~」
池袋パルコの試着室で、かのんが渡したフリルとミニスカで決める千砂都。
🐙「いえーい♪ きゃるーん♪」
☕「何という至上の愛らしさ!」
🎧「こうなると、逆に世間に見せるのが惜しくなってくるよ」
🐙「あはは、かのんちゃんは仕方ないなあ。
恋ちゃんが持ってるのも、私に着せたい服?」
☕「あ、はい。ただ私は可愛い方面は疎いもので。
いつも自分が選ぶようなものになってしまいました」
🐙「え……それって」
恋が見せたのは、シックでエレガントな上流階級のお召し物。
🐙「いやいやいや! 私は庶民だし! ホント似合わないから!」
🎧「お、ちぃちゃんにそんな弱点があったとは。恋ちゃんやるな~」
☕「わ、私はそんなつもりでは。申し訳ありません、戻してきますね……」(ションボリ
🐙「ううう……着るよ、着ますってば」
🐙「ど、どう?」
🎧「お綺麗でございます、千砂都お嬢様」(キリッ
☕「このまま式典にも出られそうですよ」
🐙「やっぱりこういうのは苦手だなあ。動きづらいし……」
🎧「その困り顔がいいんだよ! 恋ちゃん、撮影撮影!」
☕「かしこまりました!」
パシャパシャ
🐙「あ、あのねかのんちゃん。そろそろ」
🎧「分かってるよちぃちゃん、アクセサリーだね!」(親指立て
🐙「幼馴染がこうも根に持つタイプとは思わなかったよ……」
🎧「あー堪能した堪能した」
🐙「何だかんだでいい経験だったね」
☕「お二人ともお待ちください!」
🎧&🐙「?」
店員を気にして声を潜める恋。
☕「何も買わずに店を出るのですか? あれだけ試着で楽しんでおいて!」
🎧「え、でも別に欲しいものなかったし……」
🐙「義理で買うのもどうかと思うよ。店員さんもいちいち気にしないって」
☕「そ、そうですか? いやしかし……。
やはり私、リボンだけでも買って参ります!」
🎧&🐙(恋ちゃんって生きるの苦労しそうだなあ……)
駅西口に出た三人。
☕「お上品な千砂都さんの写真、すみれさんと可可さんにも送りましょうか?」
🐙「はいはい、もうどうとでもして」
🎧「んー……夜でいいんじゃないかな。二人のデートの邪魔しちゃ悪いしさ」
☕「そうですか?」
🎧「あ、飲み物切らしちゃった。ちょっと待っててね」
自販機に向かうかのんの表情には、険しさと寂しさが同居する。
🎧(優勝しよう、と。私が自分の口で宣言した。
言葉には責任を持たなきゃいけないし。
二つのことを同時にできるほど、私は器用じゃない)
頭に浮かぶのは、先日の部室でのすみれの姿。
す『運命なんてひっくり返してやるわよ。私が必ず可可を幸せにするわ!』
🎧(私には何も言えない……)
コーヒーを買うかのんの背中を、遠くから見つめる二人。
☕「今のかのんさんは、私情よりも使命を優先しているように見えますね」
🐙「うん……」
☕「千砂都さんには、望むところなのでしょうか?」
🐙「そりゃあ……皆を率いて栄冠を手にするかのんちゃんの姿は、ものすごく見たいけど。
でもやっぱり、かのんちゃんの幸せが私の一番の望みだよ」
戻ってきたかのんに、千砂都は何も言わず明るく振る舞う。
🐙「せっかく池袋来たんだし、サンシャインに登ろっか!」
🎧「私、行ったことないや。近いんだっけ」
☕「歩いて5分ほどですよ」
サンシャイン60通りを歩きながら、人混みにうんざり顔のかのん。
🎧「何でこう、東京ってどこも人多いんだろ……」
🐙「そりゃ東京だもん」
☕「地方の方からすれば、何を贅沢を言っているのかと思われますよ」
🎧「うう、そうなのかなあ」
程なくして、天にそびえるサンシャイン60が見えてくる。
南東には東京タワーと、辛うじてお台場。
東側はスカイツリーが目立つ。
北側は……
🎧「あの山は何だろ?」
☕「筑波山ですよ」
🐙「へー。こうして見ると、やっぱ池袋は北の方って感じがするね」
☕「筑波はさらに遥か北ですけどね。私は小学校の遠足で行きました」
🐙「遠くまで行ったんだ。私たちは高尾山だったよ」
🎧「あそこも人が多すぎて、自然の中って感じがしなかったなあ」
☕「筑波もそれなりに多かったですね。
静かにハイキングがしたければ飯能などが良いかもしれません。池袋から西武線で行けますし」
🎧「確かに埼玉なら自然が多そう」
🐙「いつか五人で行きたいね」
☕「可可さんは山歩きに耐えられるでしょうか……」
🐙「ダウンしたら私が背負って登山するよ」
☕「ふふ、千砂都さんなら可能でしょうね」
富士山は残念ながら見えず、展望台を後にしてB1階まで降りる。
☕「水族館とプラネタリウムもありますが、どうしますか?」
🎧「ち、ちょっと待って」
スマホで入場料を調べるかのん。
🎧「う、結構お高い……。
やっぱ水族館は品川が一番だよ。ここより千円安いし」
☕「もしやお財布が厳しいのですか? それなら言っていただければ」
🎧「い、いや、なんていうか」
🐙「ヤケ食いならぬヤケ聞きで、音楽配信いっぱい買っちゃったんだよね」
🎧「うう……」
☕「ふふ、そういう事でしたか。暴飲暴食よりは健康に良いですね。
……いえ、待ってください。何かヤケになることがあったのですか?」
🎧「そ、それは~。楽しい休日にわざわざ言うことじゃ」
☕(可可さんのこと……ではなさそうですね。苦笑している千砂都さんの雰囲気からすると)
🐙「かのんちゃん。ここまで言っちゃったら恋ちゃんも気になっちゃうよ」
🎧「………」
☕(ティアラで覚醒したすみれさんに対し、かのんさんは最初からある程度完成されてましたからね……。
一人で歌えるようになったのは成長ですけれど、五人で行うライブでは関係ないといえばないですし)
☕「王道より変化球の方が何度も再生されやすい、というのもあると思いますよ」
🎧「恋ちゃんも詳しくなったなあ。昔は配信も知らなかったのに」
🐙「よっぽど色んなサイトを見たんだね」
☕「誤解を招く発言はやめてください!
えへん。既に千砂都さんにご相談済みなら、私が何か言って解決するものでもないのでしょうね」
🎧「うんごめん。単なる愚痴」
🐙「解消までもう数日はかかるかなー。
でさ、今日のところは、何か気晴らしでもと思うんだけど。
あまりお金かからないところで、どこかない?」
☕「あ、それでしたら」
サンシャインシティの一番奥へ行き、エレベーターで7階へ。
今までの喧騒とは打って変わり、静まり返った一角にあるのが――
古代オリエント博物館である。
🐙「へえー、こんなところに博物館あったんだ」
🎧「高校生500円! 素晴らしい!」
☕「エジプトやギリシャ等も扱っていますが、特筆すべきはメソポタミア文明の展示です。
日本ではあまり馴染みがないじゃないですか」
🐙「確かに。教科書には載ってるけど、よく知らないなあ」
🎧「楔形文字とかだっけ?
音声ガイドは600円……また今度でいいや」
🐙(このガイドの人、どこかで聞いたような……)
中に入ると、来館者は他に数人だけ。
ゆとりある館内に、かのんは喜色を浮かべてひそひそ声で話す。
🎧「東京にこんな落ち着ける場所があったなんてね」
☕「貴重な展示なのだから、もっと大勢に見ていただきたいのですけどね」
最初はシリアの発掘現場や旧石器時代の展示。
続いて恋がお勧めの古代メソポタミアの展示。
ガラスケース内に円筒印章が並んでいる。
☕「これを粘土板で横に転がすと、印章が刻印されるわけです」
🎧「わ、面白ーい」
☕「千砂都さん的には、円筒はいかがですか?」
🐙「うーん、上からは丸くて、横からは四角い。まあ転がせるから好きかな!」
解説に書かれた都市ウルクや、女神イシュタルの名前を見て、千砂都の記憶が蘇る。
🐙「思い出した。友達がはまってるスマホゲーで、推しキャラの声がさっきの音声ガイドの人なんだった。
最古の物語の主人公とか何とか」*1
☕「最古の歌として知られるのも、3400年前のシリアの遺跡から出土した粘土板です。
楔形文字で讃美歌と音階が書かれていたそうですよ」
🎧「3400年か……私の悩みなんて、ちっぽけに思えてくるよ」
🐙「その時代にかのんちゃんがいたら、やっぱり歌っていたんだろうね」
🎧「あはは。メソポタミアの大地で思いきり歌えたら気持ちいいだろうなあ」
三人の脳裏に、ティグリス・ユーフラテス河が作る肥沃な光景が浮かぶ。
悠久の歴史を思い、かのんの悩みも少しは晴れたようだった。
いつも通りに戻った彼女は、次のコーナーで『エジプト』の四文字を見て少し後ずさる。
🎧「……もしかしてミイラとかいる?」
☕「いますけど、確かレプリカでしたよ」
🎧「それでも嫌だよ! 二人で見てきて……」
🐙「文化村でエジプト展やってたときに、思いきりミイラ見ちゃってトラウマなんだよね」
🎧「そもそもおかしいでしょ、死体を展示するって!」
☕「何千年も経ってしまえば、死体だって歴史資料ですよ」
🐙「ま、かのんちゃんはそこのロゼッタ石でも読んでてよ」
🐙「へー。人だけじゃなくて、ナマコのミイラなんてあるんだ」
☕「かのんさんは本当に見なくて良いのでしょうか。もったいない……」
🐙「まあ勘弁してあげてよ。私たちだって寄生虫は、可可ちゃんに誘われても無理だったでしょ」
☕「確かにそうですね。すみれさんの度胸には感嘆します」
🎧「いやーロゼッタストーンはすごいなあ。レプリカとはいえ」
その後は古代ペルシャと、ギリシャ・ローマやインドも含む東西交流の展示。
正倉院の白瑠璃椀と同じペルシャ由来の、丸いガラス器の前から動かない千砂都を引きはがし。
記念に絵葉書などを買ってからB1階に戻った。
🎧「だいぶ賢くなった気がする!」
🐙「これだけ頭を使うと、糖分がほしいよね」
☕「あちらにクレープ屋さんがありますよ」
🎧「ディッパーダンかあ……」
🐙「『竹下通りでブイブイ言わせてる私たちに、チェーン店のクレープなんてねえ』」
🎧「ちょっとちぃちゃん! 人の声色で不穏なこと言わないでよ!」
🐙「えへへ、冗談冗談。お値段的にはこっちの方がいいよね」
🎧「竹下通りは高いからね」
☕「私は批評できるほど経験がないので、色々食べてみたいです」
🐙「じゃあ決まり!」
恋は当然ながら苺のクレープ。
幼馴染たちもチョコとプリンを包んでもらい、座って食べながら博物館の感想を交わす。
☕「千砂都さんのお名前、中東っぽさがありますよね」
🎧「おー。千の砂の都だもんね」
🐙「そう言われると、一度行ってみたいなあ。
かのんちゃんが世界ツアーを周るときは、バックダンサーとして同行させてよ」
🎧「ちょ。そんなビッグになれたら苦労しないってば。
観光で行くにしても、海外は少し怖いなあ」
☕「イラクやシリアは残念ながら、政情的に厳しいですね。
イランは比較的安全なようですよ。もちろん日本と比べたら注意が必要ですが」
🎧「うーん、ちぃちゃんが一緒なら大丈夫かな?」
🐙「私に任せといてよ! 恋ちゃんも一緒にどう?」
☕「私は……大人になっても、結ヶ丘を長期間離れるわけにはいきません」
🎧「そっか。恋ちゃんの将来は結女の理事長なんだ」
☕「まずは一教師として社会経験を積んでからですけどね。
なのでお二人が海外へ行ったら、どうか学校に戻ってお話を聞かせてください。
そのためにも、私は結女を必ず守り抜きます」
決意を込めながらも、どこか悲壮な恋の表情に、千砂都は恐る恐る尋ねる。
🐙「まだ状況は厳しいの?」
☕「少子化は今後悪化しこそすれ、改善する見込みは全くありませんからね。
近隣校の方々からすれば、こんな時に新設校なんか作りやがってというのが本音だと思います」
🎧「それでも恋ちゃんは、一歩も引く気はないんだね」
☕「はい。以前のような無茶はもうしませんが、母の夢を守りたい気持ちは変わりません。
そう心配そうな顔をなさらないでください。
かのんさんだって、楽な進路というわけではないでしょう?」
🎧「う、そうなんだよね。歌で食べていきたいのは山々なんだけど。
CDは売れないとか、サブスクは儲からないとか、景気の悪い話ばっかりでね」
🐙「歌は需要が多いからまだいいじゃない。ダンスで食べてくのは相当厳しいよ。
やっぱりライブがいいよね! 物販で稼ぐんだよ!」
🎧「とほほ、それしかないのかな。
そう考えると、スクールアイドルの経験も役に立つのかもね」
☕「そのあたりはすみれさんの方が詳しそうですね。
それと――もちろん一番の夢を叶えていただくのが最良ですけれど。
一応選択肢として、結ヶ丘で音楽や体育を教える道も片隅に置いてください」
🐙「うんうん。プランBは大事だよ」
🎧「もしもの時はお願いね」
☕「とはいえコネ採用などする気はないので、しっかり資質は見させていただきますよ」
🎧「うわあ。ちぃちゃんはともかく、私に務まるかなあ……」
甘いクレープに反して話は重くなったが、間もなく二年生になる三人には避けて通れぬ話題。
しばらく未来について語り合ってから、そろそろ頃合いかと帰途についた。
サンシャイン60通りを池袋駅へ戻る途上、千砂都が本日の総括を恋に尋ねる。
🐙「恋ちゃん、私たちの幼馴染具合は適切だった?」
☕「と、おっしゃられますと?」
🐙「私たちが思い出話ばかりして、恋ちゃんが疎外感を覚えたらまずいし。
かといって昔の話を一切しないのも不自然だしで。
適度に話題に出すのが一番かなあって、事前に話してたんだけど」
🎧「ちょっ、ちぃちゃん。わざわざバラさなくても良くない?」
🐙「隠したまま帰るのも嫌でしょ」
☕「お気を使わせてしまいましたね。
疎外感は全くありませんでしたよ。もう少し濃くしていただいても良いくらいです」
🐙「そっか、なら良かった」
☕「幼い頃の私は習い事ばかりで、友人と遊ぶこともありませんでしたから。
代替行為というわけではありませんが、お二人の話で経験の空白を埋めさせてください」
🎧「恋ちゃん……」
☕「も、もちろん習い事は習い事で実になるものでしたよ」
🐙「あはは。じゃあそっちの思い出話も聞かせてよ」
☕「そうですね。これはバレエの先生からお聞きした事なのですが……」
記憶をたどりながら池袋駅に到着し、山手線で南下して帰っていく。
途中の新大久保や新宿に停車したところで、次はここで遊ぼうかなどと話しつつ。
サ「恋様が楽しめたようで何よりです」
☕「行き先が豊島区なだけに、豊かな一日でした」
サ「ふふ。豊島区といえば、雑司ヶ谷も良い雰囲気ですよ」
☕「そういえば、有名な鬼子母神堂がありましたね」
サ「え、ええ」
☕「そうデリケートにならないでください。母のためにも、一度参拝に行きたいものです」
サ「はい……その時は私もご一緒させてください」
ピンポーン
サ「あら、どなたでしょう。日も落ちたというのに」
☕「……すみれさんか可可さんであれば、こちらへ通してください」
クゥすみ編の終盤へ続く。