オ「えっ……同性から説明するのは少々恥ずかしいんですが。
要するに女の子×女の子のカップリングでしてェ……」
カ「あーなるほど。ボーイズラブの女版ってこと?」
オ「うう、あっけらかんと。
てか春山さんBLは知ってたのに、百合は知らないんですね」
カ「だってBLはドラマとかでも最近聞くじゃん。百合は聞いたことないなー」
オ「ですよねェ~」
霊『グ……グ……
グアアアアアア!』
か「うわ、暴れだした!」
霊『クソがぁ! 何でやおいに比べて百合は流行らんのだ!
そのせいで俺は死んでも死に切れん!』
オ「それがこの霊の怨念!」
カ「もしかして男の人の霊っぽい?
さすがのオサムも異性のオタクは理解できなくね。
今まで除霊してきたの、みんな女オタクの霊っしょ」
オ「……イエ! 今はジェンダーレスの時代。
女オタク男オタクと簡単にくくれるものではないのですゥ。
オタクとは一人一人違うのですから!」
か「おお! さすが」
オ(除霊の基本は相手を理解すること……。
やおい*1という言い方からして、バヒさんと同じく昔の霊。
しかも最新のオタク情報にアップデートできていないと見た。
ならば!)
オ「お鎮まりくださいィ!」
霊『むっ』
オ「百合も今ではだいぶメジャーになってるらしいですよ。
百合の専門誌ができたり。
ガンダムの新作も百合エンドだったとか!」
霊『えっ、そうなの?
じゃあもしかしてやおいより流行ってる?』
オ「は? イエイエ。そんな訳ないじゃないですか。
同人の多数派は今も昔も女性ですのでェ。
最近では腐女子をテーマにした漫画がジャムプに載るほどで。
市民権得ちゃって申し訳ない!」(オホホホホ) ←ばっちい笑顔
霊『チクショー!』
カ「なんでマウント取りたがるかなあ」
オ「しまった、つい……」
荒ぶる霊が巻き起こす衝撃波で、オサムの小さな体は吹っ飛ぶ。
オ「ぐあっ」
カ「オサム!」
オ「だ、駄目です春山さん。出てきては……」
カ「そこの霊、もうやめなって!
趣味は違えどオタク同士でしょ!?」
霊『何だ! 貴様も腐女子か!?』
カ「春山カイカ! 漫画やアニメはよく分かんないけどさ。
オタクに優しいギャル?ってやつらしいよ」
霊『馬鹿な、ギャルといえばオタクの天敵のはず。
ときメモの朝日奈さんのような性格のいいギャルすら、ジャンク屋に誘うと怒ったのに。
時代は変わったのか?』
オ「春山さん、危ないから下がって……」
カ「ごめん、プロの仕事を邪魔しちゃいけないとは分かってるけど。
どうしても見てられなくて」
霊『ほほう……。
君たち百合なの?』
とたんにブチ切れるオサム。
オ「テメーーー!!
BLでも百合でもnmmn*2は隠さなきゃダメでしょーがァァァ!」
霊『待ってくれ、俺も生前は百合紳士。
リアルの女学生で百合妄想などと、非礼なことは決してしなかった。
でも今は怨霊だし、怨霊らしいことのひとつもすべきかなって……』
オ「いらんこと考えてないで成仏しろ!」(怒)
カ「オサムとアタシが百合って……」
考え込むカイカに、オサムははっとして息を止める。
オ(ど、どうしよう。カイカちゃん不快じゃないかな。
私なんかとそんな風に妄想されて……)
カ「アタシたちがそういう関係になるってこと?
アハハ、おもしれー」(ケラケラ)
オ「春山さんはそういう人でした」(ホッ)
霊『おいおいそこはホッとしつつも
<あ、私は決してそういう対象になれないんだ…>
と胸がチクリとするところだろォ?』
オ「やかましいわ!」
カ「てことは何?
ヒスバンとバンヒスみたいに、カイオサとオサカイで争ったりすんの?」
霊『いや百合は前後は気にしない。カプ名も語感が優先だな。
個人的にはカイオサかな』
オ(えっ私が受け……じゃなくて!)
霊『てか腐女子さあ……攻め受けで争うとか馬鹿じゃねーの。
二人が想い合っていることが重要だろう?』
オ「うるせー知った風なことを!
争うってのはあくまでネタで……
普通は平和に住み分けてるんだから、放っておいてくださいィ!」
カ(バヒさんとはケンカ友達だけどね)
霊『だがキャラの関係性を狭めているじゃないか。
受け攻めにこだわらなかれば無限の可能性があるのに!
例えば……』
カ「オサムさぁ……いつもいつもそんな可愛くて。
アタシのこと誘ってんの?」
オ「ヒエッ? そ、そんなつもりでは……」
カ「マンガだけじゃなくてアタシのことも見てよ」(顔近づけ)
オ(ああっいい匂いがする! 抵抗できない!)
<オサム×カイカ>
オ「ずっとずっとカイカちゃんが好きでした!
私とお付き合いしてくださいィ!」
カ「えっ!? アタシ!?
そそそそうだったの!?」
真剣なオサムの瞳に、思わず頬を染めるカイカ。
カ「うん……まあ……オサムとだったらアリかな?」
オ「カイカちゃん……。私、勇気を出して良かった……!」
霊『とか……とか……』
オ「いい加減にしろ!」
BAGOOOOON
赤面しながら、ジャムプらしく見開きでアッパーカットを食らわすオサム。
怨霊は星となって消えた。
オ「しまった殴り飛ばしちゃった!」
カ「え? これで解決?」
オ「イエ……成仏してないので、数日したら復活しますゥ……」
カ「うーん、今回ばかりはみしんに任せるのも手じゃね?」
オ「ぐっ。確かにみしんちゃんの雑食ぶりなら、百合もいけそうですけど。
でも私が受けた依頼、もう少し頑張ってみます」
カ「そっか、ファイト!」
仕方なく撤退となり、依頼人に頭を下げるオサム。
オ「また現れたらすぐ来ますのでェ」
そのまま帰宅したが、家でラフな格好のカイカをオサムは直視できない。
オ(どうしよう……。
あのバカ霊のせいで、カイカちゃんを変に意識してしまう)
夕食時。
カ「オサムー、しょうゆ取って」
オ「はっ、はヒ!」
焦ってぎこちないオサムに、察したカイカはにや~と笑う。
カ「たまには一緒にお風呂入ろっか~?」(ニヤニヤ)
オ「いっイエ……お気遣いなく……」
オ(理解がありすぎるのも困りもの!)
そして数日後――
依頼人からの連絡を受け、一人で除霊に向かうオサムの後を、こっそりつけるカイカ。
カ(オサムは来るなって言ってたけど、少しだけ……)
オ「怨霊さん、出てきてくださいィ」
霊『何か百合的な進展はあった?』
オ「いきなりそれかよ! テメーのせいでこっちは調子狂いっぱなしですゥ!」
霊『ほうほう。つまり脈がないでもないと……』
興味津々の霊だが、オサムはひとつ深呼吸すると、直立したまま落ち着いて話し出した。
オ「……私は陰キャの上に趣味も腐ってて、友達は誰もいませんでした。
学校で話す人もなく、二次元の世界へのめり込むばかり。
寂しいけど、仕方ないって思ってました」
カ(オサム……)
オ「そんな時に現れたのが春山さんなんです。
最初は私と真逆のギャルで怖かったけど、オタクにも優しくて、私の趣味も気持ち悪がらないでくれた。
たまたま私の除霊が役に立って、いつも一緒にいるようになった。
そのゥ……カイカちゃんが望むなら、百合展開もやぶさかではないデスケド……」(ゴニョゴニョ)
カ(ん、急に小声になって聞こえないぞ)
オ「でも! 友達のままでも、幸せすぎるくらい幸せなんですゥ!
苦痛の多かった三次元の世界が、春山さんのおかげで本当に楽しくなりました。
これ以上を望んだら、強欲の罪で地獄に落ちるってもんですよ!
それが私、乾オサムの本心です!」
霊『………』
しばらく固まっていた怨霊だが、その目の位置からつうと涙が落ちる。
霊『なんという美しい友情……これこそ百合だ……』
オ「あ、あれ? 百合って友情も含むんですか?」
霊『うむ、百合の範囲は広いのだ。何でも恋愛にするやおい女とは違うのだよ』
オ「女向けも友情寄り創作はあるっての。偏見ヤメロ!
まあ要するに、<尊い><関係性><クソデカ感情>ってやつですね」
霊『この時代ではそんな表現なのか。あまりピンとこないな。
要するにあれだな。<萌え~~>!』
オ「古っ!」
霊『良い話を聞かせてくれてありがとう……』
満足しながら、怨霊は成仏していった。
ふぅと息をつくオサムの後ろから、カイカがとぼけた顔で歩いてくる。
カ「あっれ~。散歩してたら、こんなとこに迷い込んじゃった」
オ「は、春山さんっ!? まさか聞いてて……」
カ「さて、何のことだか。それよりさ」
満面の笑顔で、がっしとオサムと肩を組むカイカ。
カ「アタシついさっき、めちゃくちゃ嬉しいことがあったんだよね。
だから今日はすき焼きにしない?」
オ「え、は、はヒ!
その……春山さんが嬉しいって言ってくれたことが、私もめちゃくちゃ嬉しいですゥ!」
笑い合い、すき焼きの具の話をしながら、二人は家へ帰っていく。
<END>